「この通りは『御苑前本通り』といいます」。新宿御苑大木戸門前から靖国通りへと伸びる道路沿いに、こう書かれた大きな看板がある。設置しているビルの正面に回ると、「岡本」「第3倉庫」と控えめな文字。管工機材・住宅設備機器卸業を営む株式会社岡本(新宿区新宿1)の第3倉庫ビルだ。
同社は1945(昭和20)年、群馬県伊勢崎市で設立し、同年10月に現在の場所へ移転。看板が取り付けられているのは、本社ビルの斜め向いにある第3倉庫で、1999年に建てられた。
青地に白文字の縦型看板は遠くからでも一目で認識できるほど大きなものだが、看板自体に社名や電話番号などは入っていない。看板を付けた理由について、考案した同社会長の岡本慶一さんは「以前この地域には、通りから名付けた『本通り会』という商店会があったが、古くからいた人たちは次第に立ち退き、商店会もなくなってしまった。地域住民やここを通る人に、昔からある『御苑前本通り』の名前を忘れてほしくないという思いで、倉庫の建設時に設置した」と説明する。
その語りかけるような表現に、看板を見上げた通行人が「丁寧な看板だなあ」と感想を漏らすこともあるとか。タクシー運転手の中には、この看板を目印にしている人もいるという。「誰かに頼まれたり、区から依頼されたりしたわけではない。昔からいる人の地元愛、ただそれだけ。別にお褒めいただくことも怒られることもない」と岡本さんは淡々と話す。青い看板は、今日も道行く人々に、昔ながらの通りの名を教えてくれている。